細木数子

ようやく島倉千代子は細木と手を切る事が出来たわけだ。ここでマスコミの扱いを覚えた細木数子は、何度かこの顛末のいいわけをしている。そのいいわけをの一つに、“島倉としては細木と離れたくなかったのだが、いずれ独立させる約束をしていたから、無理に独立させた”というものがある。「三年前、借金が終わったら独立するって約束したでしょう」」という細木に、「なんの相談もなく勝手に決めないで。わたしは独立しません。わたしはオネェ以外の人は信じられません。独立なんてしたくない」と島倉が泣き付く。それでも細木は泣く泣く追い出した――というのが細木の告白であるが、もちろんこれは真っ赤な嘘。細木のごく近しい筋からも、こんな手前勝手な事情は一切聞かされた事はない。しかもこのいいわけは「自分の家に同居されるとプライベートがなくなるし」などと細木ｻｲﾄﾞの事情をくっつけたおまけ付きだ。

「最初から島倉のマネジメントなんてしたくなかった。堀尾が面倒をみてくれっていうから仕方なく引き受けた。自殺でもされると困るから身請けしただけの事。当時は彼女を食い物にしているとマスコミに叩かれて、自分としてもこれ以上やったら信用を無くしてしまうと思った」(細木)。
細木自身も苦労を重ね、三年間で２億４ＯＯＯ万円を返したという細木の談話だが、この女性週刊誌での告白には続きがある。「お千代は借金を返し終わったとたん、事務所を移籍してしまったのよ。わたしにはなんの挨拶もなく、今日に至るまでそれっきりです」この話が本当なら、当時「お千代は自分が独立させた。彼女は独立を泣いて嫌がった」と同じ女性誌の誌面で告白した事は、一体どうなるのであろう。このふたつのいいわけを見比べてみれば、素人目からみても細木の主張は支離滅裂。どちらも真実ではないのは明らかだ。ちなみに、同年末のテレビ特番で、島倉千代子がはじめて自身の借金問題を語ったが、「わたしを救ってくれたのは、歌でした」という、たった一言だけのコメントであった。

占い師・細木数子の本業は『占い』。しかし細木自身は「わたしのいうことなんて信じちゃダメよ」「占いなんてあてにしちゃダメ。信じちゃいけない」と、常日頃からテレビ番組などでも発言、自身の占いの著書の前書きにもそう記している。あたるも八卦、あたらぬも八卦といわれるのが占いだが、細木の『六星占術』は、ある人物の占法のパクりに独自の斜め覚えの手法をあてはめただけなのだから「細木数子の占いは当たらない」という世間の評価もあながち嘘ではなかろう。むしろ心中では細木本人がそれをいちばん自覚していると思われるのだが…。細木数子という稀代の占い師が誕生したきっかけは、ある女性占い師との出会いであった。ときは㍼４９年(1974年)、東京・新宿での事。細木がなぜその占い師のもとを訪れるようになったのか。細木が例の借金が縁で出会った小金井一家の総長・堀尾昌志。細木は堀尾と夫婦同様の生活(慣習としてヤクザは懲役の可能性などを考慮し、死ぬまで夫婦として生活をしても、入籍しないケースが多い)を送っていた。実はこの堀尾昌志の先代である小金井一家の長の娘が、占い師だったのである。そんな堀尾がらみの縁によって、細木は恩師となる女性占い師に出会ったのだ。その女性占い師の父親は、新宿でも十二社から大木戸までの荒木町一帯をシマとして取り仕切っていた。

その後継者であり、細木の内縁の夫である堀尾は、その後、小金井一家トップの総長となる。当時の博徒一家は非常に仁義や義理を重んじており、一昔前の抗争中心のヤクザや、現在の経済犯罪を伴うマフィア化したヤクザとは一線を画していた。例えば先代の家族を、まるごと後継者のトップが面倒をみるような場合がほとんど。中には、死ぬまで家族同様、同じ屋根の下で暮らすパターンもあったのである。それにしても、この女性占い師との出会いが無ければ、いわゆる『六星占術』も、現在の細木数子も存在しなかったことになる。まさに女性占い師さまさま、である。膨大な借金苦に陥った細木が、起死回生の突破口をつかむきっかけとなったのだから………。