白と黒の八十八鍵の上で

何人、何十人助かっても
お前と子供が生きてなかったら
何の意味もないんだからなと
戦場で叫び散らし
女の子と離れ離れになる夢を見た。

何があれば幸せなのか
どうあれば幸せなのか
そこそこに考えるところだが
そもそも幸せが欲しいのかどうかさえ
疑問だ。

人は常温で沸騰するのか。

心の理解や把握できていない部分を
闇と呼ぶのなら
誰かを傷付けようとする感情よりも
誰かを強く求める想いの方が
ずっと深い闇の中にある。

その中に飛び込み
溶け込もうとする人を
臆病だなんて自分には言えない。

『そういう時もあるよ
　仕方ない
「そういうことを言ってるんじゃない
『じゃあ何？
「いや、いい
『あー、ごめん
　今普通に先輩として聞いてた
「言い訳か
『そうじゃない
　例えば俺とお前が別の仕事してて
　お前の話だけで今の聞いてたら
　そりゃムカつくなって言ってたよ
「自分もその場に居て
　互いに内部事情を知ってるから
　そこは俺が折れないと仕方ないって
　言いたいのか
『そう
「分かった。
　でも俺は先輩としてのお前に
　聞いてほしくて言ったわけじゃないから
『ちゃんと頑張ったんだな偉いよ

結局のところ
同じ職場で働く相手だろうと
相手は人間だ。
分かり合ることもあれば
分かり合えないこともある。

その選択で得たものが
以前よりも多くの笑顔でも
辛さを含んだ自由でも
哀しみが溶け込んだ愛でも
俺はかまわないと思うよ。